2011年4月13日水曜日

【翻訳】SketchUp Pro ケーススタディ: Randy Wilkins

Randy Wilkins氏は、「トロン レガシー」や「ソーシャルネットワーク」「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」などのハリウッド映画界で活躍するベテランのセットデザイナーです。
我々は彼がどのようにしてSketchUp(と最近リリースしたアドバンスカメラツール)を映画製作のワークフローに取り入れたかをインタビューしました。

出身地と現在の活動拠点を教えてください。
私はオハイオで育ち、大学院進学のためロサンゼルスへ移住しました。
その後すぐに映画業界で働き始めました。

学校では何を学んだのですか
私が好きだったのは建築と歴史と木工の授業でした。その3つの中で、自分のキャリアに最適なのは建築だと思っていました。しかしカメラに夢中になってからは考えが変わり、一度学校を中退して、映画の学位を取ろうと思い再び学校に戻るまでは写真家として仕事をしていました。
オハイオ州立大学で映画の美術学士を取得しました。
大学4年生の時に、オハイオ州立大学での卒業制作の映画がアカデミー賞学生部門の最終選考作品に残り、米国映画協会の特別奨学生となりました。

どんなお仕事をされているのですか?
ロサンゼルスの映画界で主にセットデザイナーとして働いています。
フリーの映画製作者になるというのはなかなか金銭的に厳しいと思いますが、私はセットデザインというポジションに落ち着きました。ラッキーでした。
この仕事は建築と製図、写真の経験を活かせるのでとても私に向いているし、映画業界に関わりながら自分の映画も製作することができます。

代表作を教えてください
今まで50作品以上の映画やテレビシリーズを手がけましたが、セットデザインの素晴らしいところは常に違うことができて、常に新しいことが学べることです。
私はプロダクションデザイナーDon Burt氏の下で「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」の仕事をちょうど終えたところで、最近では「ソーシャルネットワーク」や「トロン レガシー」にも携わっていました。

一番誇りに思う作品はどれですか
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」が誇りに思う作品の一つです。歴史的、古典的な建築物の仕事にはいつも飛びついてしまいます。
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は結果的にはすごくよかったです。あの映画のセットデザインは非常に難しいものでした。70日の撮影中に170以上のセットを作り上げたのです。セットは全て1960年代から70年代に使われていたものを使い、まさにチャレンジでした。

SKetchUpのことを知ったのはいつですか
私が最初にSketchUpのことを知ったのは2003年で、他のセットデザイナーが使っていたのを見た時です。
とても覚えやすそうで、すぐ簡単にモデルを作ることができるという印象でした。
正投影図に慣れてない人にとって3Dモデルを作るということはとても難しいのです。我々はそれまでたくさんのフォームコアモデルを作っていたのですが、とても時間がかかる作業でした。
他の人にわかりやすい3Dモデルをあっという間に作成できるということは、タイトなスケジュールの中で働く我々にとっては命の恩人が現れたようなものです。

2004年からSketchUpを学び始めましたが、Mike Tadros氏のクラスを受けるまではなかなか上達しませんでした。彼のクラスはとても素晴らしく、彼は優秀なインストラクターです。
クラスを受けてからは、仕事でラフデザインのほとんどをSketchUpで行い、本番は手書きで行っていました。最近まで、ほとんどのセットデザイナーはさまざまな理由から手書きでデザインしていました。
下は映画のシーンの典型的な図面です。
年代を感じさせたり有機的な形を使うシーンをよく扱うのですが、AutoCADでは難しいので手で書いています。

映画シーンの典型的な手書き図面:「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」で登場する暖炉の詳細

次の3つの図はLayOutを愛用しているよい例です。
テクスチャや影を加え、手書きの図を貼り付けています。CADで描いた図よりもリアル感が増します。


有名な木工師であるChristopher Schwarz氏のモデルを基にした、LayOutを使った設計図。


「ソーシャルネットワーク」で登場する壊れた煙突の図

仕事ではSketchUpをどのように使っていますか
SketchUp ProにLayOut機能が追加されてからは、作業の95%をSketchUpとLayOutを使って行っており、いつも新しい使い方を発見します。
写真から設計図を起こしたり、歴史的な建築物や家具を再現したり、野外撮影セットに合わせて作ったりと、セットデザイナーは本当にたくさんの図を描くのです。

SketchUpのユーザーは、このソフトが単なるモデリング作成以上のことができるソフトだということに、だんだん気がつくのです。
私がSketchUpで作成した図面パッケージを見せたときの人々の反応にはこちらが驚いてしまいます。
昨年テレビシリーズの「グリー」の仕事をしたときに、スタッフはファーストシーズンで使った劇場を再現したいと言ってきました。そこで私はSketchUpで少し小さめの劇場を作り、LayOutで図面を描き出しました。
キーグリップ(大道具のリーダー)が私の作成した透視図を見て、何で作成したか聞いてきたので、SketchUpだと答えると驚いていました。


グリーの劇場セットの透視図


グリーの劇場セットの平面図

映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は70年代の人気TV番組「To Tell The Truth」の再現シーンから始まります。
プロダクションデザイナーのJeannine Oppewall氏は私にカメラに収まる部分のテレビセットを正確に再現してほしいと依頼してきました。
オリジナルの設計図はとうの昔にどこかへ行ってしまっているので、資料は当時のビデオしかありませんでした。
Figure5のように、透視図のルールを逆にしたバック・プロジェクション(逆投影)という技法があります。
写真からカメラの高さやティルト、どのレンズを使うかなどの設計図ができあがります。
SketchUpを使うとこの技法のプロセスが今までよりもずっと簡単にできることがわかりました。
(下図をご覧ください)

鉛筆で書いたバックプロジェクションの計算例


SketchUpで行ったバックプロジェクション

私は現在「トロン レガシー」でプロダクションデザイナーを務めたDarren Gilford氏の元で仕事をしています。
彼は熱心なSketchUp支持者でもあります。彼はデザインのほとんどをSketchUpで行い、セットデザイナーに渡すモデルが素晴らしいものなのです。
図の拡大縮小やバックプロジェクションはありません。私は彼が何をしたいのかSketchUpのモデルを見れば正確にわかります。

他にSketchUpでよく使う機能は、バックプロジェクションの時によく使われるマッチフォトです。
すでに存在しない建物を作るときによく使います。
映画祭にいくつも参加し好評を得て、長編を作ったほうがいいとも勧められ、勇気付けられた「A Question Of Loyalty」という私が撮影した映画があります。
1930年代にドイツで起こった、市民の自由が侵害された話です。
この映画は、第二次世界大戦で破壊されたFriedrich Weinbrenner氏が設計したReitlinger Houseのアパートを再現して撮影を行いました。
私はSketchUpで再建するのに家の写真とWeinbrenner氏のオリジナルプランを何枚も使い、実際どのくらいの建物のセットが必要なのか、またどのくらいのものがデジタルでまかなえるのかを計算しました。
(下図をご覧ください)

LayOutを使用したReitlinger buildingの再現図

どんな時にSketchUpが特に役に立ちましたか
テレビシリーズの「ヒーローズ」の仕事をしていたときに何度もSketchUpに助けられ、SketchUpの可能性を感じました。
この番組は野心的な試みを行い、毎週長編映画を作るようなものでした。

エピソードの一つでマンザナー強制収容所のような収容所を造ることになり、デザインと作図に3日、建設に8日かかりました。最初の撮影後に建築チームと塗装スタッフが14時間かけて45年後の建物に作り変えました。
プロダクションデザイナーのRuth Ammon氏は収容所建設に適した土地を探しに行く時に、彼女の希望する収容所のスケッチを私に渡し、私は彼女に収容所中心地のGPSの座標と方位がわかる写真を送ってくれるように頼みました。
彼女たちが撮影地探しから戻ってくるまでに私はGoogle Earthから詳細な地形図をダウンロードし、収容所のモデルを置いて新しい道路も設定しました。作業日数が少なくとも2日分は短縮できたと思います。



「ヒーローズ」収容所のSketchUpモデル


収容所の完成


45年後の収容所

この番組は、写真を背景にしてその場にいるかのように撮影したり、舞台のトランスライトのデザインが優れていました。
この作業は全てSketchUpで作成して最終的に紙で仕上げましたが、この方法は目分量や勘に頼らないので確実で最善の方法でした。
壁の写真に正確な尺度で、プロダクションデザイナーの希望通りに描くことができます。



舞台にかけられたトランスライトの完成

アドバンスカメラツールを仕事でどのようにお使いですか
ずいぶん前から「Film & Stage plugin (フィルム&ステージプラグイン)」のバージョンアップを望んでいて、Googleがバージョンアップに動き始めたと聞いてわくわくしていました。
この機能は私にとってはまさにピースの欠けたパズルのようなもので、アドバンスカメラツールの登場で、SketchUpは映画デザイン界では完璧なソフトとなりました。
私が思い描くことで実現できないことはもうほとんどありません。

映画のスクリーンにデジタルモデルが登場すると、プロダクションデザイナーやディレクター、撮影監督がまず尋ねてくることは、、「焦点距離はいくつだろう?」です。その他のことは全て二の次です。とにかく撮影できなければ他のことが進まないのですから。

撮影できないときはカメラアングルを使った回避策があるのですが、扱いが難しいのです。
アドバンスカメラツールはその点素晴らしく、カメラを動かさなくてもカメラモードで焦点距離を変更でき、またカメラを再配置しなくてもアスペクト比やティルト、高さを変更できます。
画面の右側にデータが見られるのでとても助かります。

つまりSketchUpは2つの異なるVIS's(ビジュアライゼーション)にとって、非常に役に立つソフトなのです。
映画業界では、ビジュアライゼーション(視覚化)は3つのパートに分割されています。D-VIZ(デザイン・ビジュアライゼーション)とPRE-VIZ、POST-VIZです。D-VIZは伝統的な試作デザイン段階でセットや環境がSketchUpで作成され、SketchUpはすでに最も使われているモデリングソフトとなります。
プリビジュアライゼーション(PRE-VIZ)とポストビジュアライゼーション(POST-VIZ)は、カメラを通して正確に何が見えているかということと、実写とCGを組合わせることに携わります。
アドバンスカメラツールでは、モデルとカメラの位置、アスペクト比と焦点レンズを詳細に設定できます。
この機能がSketchUpに欲しかったのです。

他のソフトと比べて優れている点はありますか
カメラやレンズのデータを扱えるソフトは、今まではとても高価なものでした。
MayaやRhinoなどの高額ソフトにモデルをインポートしていました。
今はSketchUpのアドバンスカメラツールがあるので、今までの問題とは無関係になりました。

アドバンスカメラツールはあっという間に絵コンテ作りでも役立つツールになりました。
アドバンスカメラツールはカメラとレンズの詳細データが出るので、3D絵コンテソフトでよくある擬似フレームのような機能がたくさん備わっています。SketchUpでコンテの機能も使えます。
ボードをLayOutで作成すれば、モデルを変更すると自動的に変化が反映されます。これは大きな強みです。

「映画制作者向けのビジュアライゼーション」というセミナーをロサンゼルスで開く予定で、ほとんどのカリキュラムはSketchUpかLayOutで作成されます。
レンズやデジタル絵コンテのことを話す時に、アドバンスカメラツールはとても役に立ちます。


焦点距離の比較ダイアグラム

熱意ある若きセットデザイナーと映画製作者にアドバイスをお願いします
監督を目指す人には私はいつもJudith Weston Acting Studioのような優れた演劇クラスの受講を勧めています。受講することで俳優により共感でき、彼らとコミュニケーションをとりやすくなります。アニメやCGキャラクター映像を作りたい人も、演技のプロセスや登場人物の展開を理解するとキャラクターたちが感情的になり、リアル感が出ます。
カメラのことも学んでください。 "Film Directing: Shot by Shot: Visualizing from Concept to Screen"(訳者注:日本では「映画監督術 SHOT BY SHOT」というタイトルで翻訳本がある)とDigital Moviemaking 3.0がおすすめです。

短編映画を撮りましょう。以前は映画製作に必要な高価な機材を使うために映画学校に通いましたが、今では家で撮影と編集ができる機材は手ごろな値段になっています。
プロダクションデザイナーは伝統的にはまずアートディレクターかセットデザイナーから仕事を始めたものでしたが、今はイラスト、プロダクトデザイン、VFX(視覚効果)界などさまざまな分野からプロダクションデザイナーになります。
全米美術監督組合(ADG)ではPerspectiveという雑誌を発行しています。オンラインで購入でき、最近の映画のデザインについての記事が掲載されています。
これからは視覚的なコミュニケーションが求められるでしょう。つまり意匠図が理解できるのと同じように、製図とモデリング(模型製作)のスキルが仕事のやり取りの中でとても役立つことになります。

建築、デザイン、歴史、テクノロジーを勉強してください。学んで役に立たないことは何一つありません。
プロダクションデザイナーとして活躍するには、映画製作の他の作業全てにおいて基礎を知っていなければならないのです。

投稿:Gopal Shah, プロダクトマーケティングマネージャー

原文はこちら


Google SketchUp Proオンラインショップ